目次
- 時効って何年?
- 時効期間は何年?
- いつから時効期間が始まるの?
- 時効期間を延長、リセットする方法は?
この記事では上記のような疑問、お悩みにお応えします。
不倫慰謝料は損害賠償請求権という権利の一種ですから時効が完成すると権利行使できなくなる、すなわち、不倫慰謝料を請求できなくなるおそれがあります。
ところが、不倫されたことを知って直ちに慰謝料請求できる人は少ないでしょう。不倫から数か月、場合によっては数年以上経って慰謝料請求せざるをえない方もおられると思いますが、その際に注意しなければいけないことが時効です。
この記事では時効の意味や時効期間、時効期間の起算点のほか、時効期間を延長、リセットさせる方法を解説していきます。今後、不倫慰謝料請求をご検討中の方はぜひ参考にしていただければと思います。
不倫慰謝料の時効とは?
まず、不倫慰謝料の時効について簡単に確認しましょう。不倫慰謝料の時効とは、ある時点(起算点)から一定期間を経過すると、配偶者や浮気相手に対して慰謝料を請求することができなくなることです。
冒頭でも述べましたように、不倫の慰謝料は損害賠償請求権の一種です。そして、この損害賠償請求権は、法律で、「ある時点から一定期間経過する(時効が完成する)→相手が時効を援用する(※1)→権利が消滅する→慰謝料請求できない」という決まりになっているのです。
なお、民事上の時効には消滅時効と取得時効があります。消滅時効は権利を消滅させる時効、取得時効は権利を取得するための時効です。不倫慰謝料の時効はいうまでもなく消滅時効にあたります。
※1 時効の完成によって利益を受ける人(不倫慰謝料の場合、配偶者と不倫相手)が「時効による利益を受けます」という意思表示をすること。時効の援用によってはじめて権利が消滅します。
時効の意義
では、なぜわざわざ消滅時効という法制度が設けられているのでしょうか?
不倫されて苦しい目に遭ったのだからいつまでも請求できて当然、と考える方もおられるでしょう。しかし、法律は、
■ 長年権利を行使されなかった人(債務者(※3))の「これ以上権利を行使されない」という期待を保護する
という考えをとっています。
法律は、権利行使が認められているのに、その権利の上にあぐらをかいていつまでも権利行使しない債権者を救済する必要はないとしているのです。また、債務者からすれば、消滅時効がなければ「いつ権利を行使されるかわからない」という不安定な状態にいつまでも続くわけですから、こうした状態から解放してやる必要があるというわけです。
※2 権利を行使できる人
※3 権利を行使され、義務を履行する責任を負う人
不倫慰謝料の時効期間
不倫慰謝料の時効期間は「3年」です。配偶者に対する不倫慰謝料でも、不倫相手に対する不倫慰謝料でも同じく3年です。損害賠償請求権の一種である不倫慰謝料の時効については民法724条に規定されていますので、この機会に確認しておきましょう。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
ちなみに、2項の「20年」は民法改正前までは除斥期間と呼ばれ、時効とは別の法制度で、時効期間を延長したり、時効期間の進行をリセットすることができませんでした。
しかし、改正後は時効期間の一部とされたことから、後述する時効の完成猶予(期間の延長)や時効の更新(時効期間の進行のリセット)が可能となりました。
気を付けたい時効期間の起算点
時効期間とともに気を付けたいのが時効期間がいつから進行するのか、すなわち、時効期間の起算点です。なぜなら、時効の起算点によって時効完成日がわかるからです。以下のとおり、時効の起算点は配偶者と不倫相手とで異なりますので注意しましょう。
配偶者の時効期間の起算点
配偶者の時効期間の起算点は、さらに離婚する場合と離婚しない場合とで異なります。
離婚する場合
離婚する場合の時効の起算点は離婚成立日(協議離婚の場合は離婚届が受理された日)です。
離婚する場合は離婚に至ったことから生じる精神的苦痛(損害)の慰謝料(いわゆる離婚慰謝料=離婚自体慰謝料)を請求します。そして、離婚成立日に「損害」が発生したと考えますから、離婚成立日を時効の起算点と考えるのです。
離婚しない場合
離婚しない場合の時効の起算点は不貞の事実を知ったときです。
もっとも、配偶者に対する不倫慰謝料の時効は婚姻中はもちろん離婚後6か月間は完成しません(民法159条)。
(夫婦間の権利の時効の完成猶予)
第百五十九条 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
そのため、この規定の上では、婚姻関係が継続している間はいつまでも配偶者に不倫慰謝料を請求できることになります。
不倫相手の時効期間の起算点
不倫相手の時効期間の起算点は不貞の事実及び不倫相手(の氏名、住所)を知ったときです。
不貞の事実を知ったとしても不倫相手を知らない場合は時効期間は進行しません。また、不倫相手を知ったときとは、不倫相手に対して不倫慰謝料を請求することが事実上可能なとき、という意味です。したがって、不倫相手の顔は知っているけれども、氏名・住所は知らないという場合は「知ったとき」にはあたらず、時効期間は進行しません。
なお、不倫相手に対する慰謝料請求の時効期間は、一連の不貞が終わった時点ではなく個々の不貞が終わった時点から進行します。また、裁判所は、不倫相手に対する不倫慰謝料の時効期間の起算点を離婚成立日とすることを原則(※)として認めない立場を取っています(最高裁判所平成31年2月19日)。そのため、配偶者よりも不倫相手に対する慰謝料請求の時効がはやく完成してしまう可能性があります。
※例外的に、「不倫相手が夫婦を離婚させることを意図して、その婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情がある場合」は不倫相手に対する離婚自体慰謝料を認める(すなわち、不倫慰謝料の消滅時効の起算点を離婚成立日とすることを認める)としています。
時効期間を延長する「時効の完成猶予」の方法
時効期間の起算点から3年間が経過しても、一定期間、時効期間を延長することを「時効の完成猶予」といいます。
配偶者に対する不倫慰謝料の時効の完成猶予(夫婦間の権利の時効の完成猶予)についてはすでにご紹介したとおりです。以下では、その他の時効の完成を猶予する方法をご紹介します。
催告
催告とは裁判手続きによらないで不倫慰謝料を請求することです。具体的には不倫相手(あるいは離婚後の元配偶者)に対し、配達証明付きの内容証明郵便を使って不倫慰謝料の請求書面を送ります。
内容証明郵便を使うと請求書面は直接相手に手渡されます。相手が請求書面を受け取った日から6カ月間は時効が完成しません(民法150条)。催告は1回限りの効力しかありません。つまり、一度催告して6カ月以内に再度催告を繰り返しても、1回限りの効力しかありません。
協議を行う旨の合意
配偶者(又は離婚後の元配偶者)、不倫相手との間で、慰謝料について協議する旨の合意を書面にした場合は、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は時効は完成しません(民法151条1項1号~3号)。
■ 合意において当事者が協議を行う期間を定めたときは、その期間を経過したとき
■ 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でなされたときは、その通知の時から6か月を経過したとき
調停の申立て
配偶者に対する調停は離婚前は「夫婦関係調整調停(離婚)」を、離婚後の慰謝料請求の調停は「慰謝料請求調停」を家庭裁判所に申立てます。一方、不倫相手に対する調停(民事調停)は簡易裁判所に申し立てます。
調停を申し立てた後、調停が成立するまでは時効は完成しません。また、調停不成立、調停取り下げなどによって調停が終了した場合でも、その日から6カ月間は時効は完成しません。一方、調停が成立した場合は、後述する時効の更新となり、時効期間の進行がリセットされます。
裁判の提起
裁判を提起することでも時効の完成が猶予されます。裁判を提起した場合、裁判が終わるまでは時効が完成しません。また、訴えを取り下げた場合や裁判所により訴えが却下された場合でも、その時点から6カ月間は時効は完成が猶予されます。一方、裁判による和解、判決の効力が確定した場合は、後述する時効の更新となり、時効期間の進行がリセットされます。
なお、配偶者に対する離婚前の裁判については、原則として、調停を経てからでなければ提起することができません(調停前置主義)。
時効期間の進行をリセットする「時効の更新」の方法
時効期間の起算点から1か月、1年…と時効期間が進行していたものの、その期間をリセットして0に戻す(振り出しに戻す)ことを「時効の更新」といいます。以下では、主な時効の更新方法についてご紹介していきます。
債務の承認
手軽に実践できる時効の更新方法は、配偶者(あるいは元配偶者)や不倫相手に債務を承認させることです。債務の承認とは、配偶者や不倫相手が浮気の事実を認め(①)、慰謝料の支払い義務があることを認める(②)意思表示のことです。
口頭(口約束)でも債務を承認させることができますが、そのままだと後で言った・言わないのトラブルに発展しかねませんから、上記の①と②を誓約書や示談書にきちんと記載しておくことが大切です。
調停の申立て、裁判の提起
難易度の高い方法となりますが、調停や裁判を起こし、かつ、調停では調停を成立させ、裁判では和解・判決を確定させることによって時効の更新の効果が発生します。なお、調停、裁判を起こすだけでも時効の完成を停止させることができますし、調停不成立、訴え取り下げ、却下等で裁判を終えた場合でも時効の完成猶予の効果が生じることはすでに述べたとおりです。
時効に関するよくあるQ&A
最後に、不倫慰謝料と時効に関して、よくある疑問についてお答えしていきます。
2年前から浮気されていますが、慰謝料請求できますか?
配偶者(あるいは元配偶者)、不倫相手いずれにも請求できます。前述のとおり、配偶者に対する不倫慰謝料の時効は離婚するまで完成しませんし、離婚してからも最低でも6か月の猶予期間があります。また、あなたが2年前から不倫相手のことを知っていたとしても、時効完成まで残り1年はあります。
先日、時効だからと夫から10年前の浮気を告白されました。慰謝料請求できますか?
前述のとおり、婚姻期間中、配偶者に対する不倫慰謝料請求権は時効完成による消滅しません。不倫相手に対しては時効が完成している可能性がありますが、不倫相手が時効を援用しない限り、請求は可能です。もっとも、不倫から長期間を経過していることから、不貞等を証明する証拠が残っているのか、そもそも慰謝料が発生するのかなどの課題を検討しクリアする必要があります。
時効期間が経過した後に慰謝料請求することは可能ですか?
可能です。時効期間が経過して時効が完成した後も、配偶者や不倫相手が「時効の援用」という手続きを取らない限り、権利は消滅しないからです。そして、あなたが請求した後に、配偶者や不倫相手が「払います。」という意思表示(債務の承認)をした場合は、配偶者や不倫相手は時効の援用をして権利が消滅したことを主張することができなくなります。
不倫相手に対する慰謝料請求はどのタイミングで行えばよいですか?
離婚するかしないか、配偶者と話し合って決めた後が基本です。離婚するとなった場合、離婚は慰謝料の増額事由ですから、不倫相手に慰謝料の増額を強く主張できます。
もっとも、前述のとおり、時効完成には注意が必要です。また、不倫相手が行方を暗ますおそれが高いなど緊急性が高い場合は、話し合いを終える前に慰謝料請求することも検討しなければいけません。
今回の内容は以上となります。
最後までお読みいただきありがとうございました!